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「第5回 無伴奏の世界 エマニュエル・ジラール(チェロ)& 神谷未穂(ヴァイオリン)」
《螺旋上の音楽》
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谷口康雄(音楽ライター)
2026.4.7up
公演データ
「第5回 無伴奏の世界 エマニュエル・ジラール(チェロ)& 神谷未穂(ヴァイオリン)」
2026年5月9日(土)13時開演 Hakuju Hall(東京・富ヶ谷)
全席指定(1部・2部通し)¥5,500 学生¥3,300
演奏曲目
※曲順が変更となりました。
第1部
J.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006(ヴァイオリン:神谷未穂)
コダーイ/無伴奏チェロソナタ Op.8(チェロ:エマニュエル・ジラール)
第2部
J.S.バッハ/無伴奏組曲 第4番 変ホ長調 BWV1010(チェロ:エマニュエル・ジラール)
バルトーク/無伴奏ヴァイオリンソナタ Sz117 BB124(ヴァイオリン:神谷未穂)
エマニュエル・ジラール(チェロ)と神谷未穂(ヴァイオリン)による第5回無伴奏の世界(2026年5月9日、Hakuju Hall)では、2世紀もの時を隔てた精神が、同心円上の弧のうちに映し出され、分かちがたく結びつけられていることを目の当たりにする。
ジラールと神谷は、ともにヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)が無伴奏のヴァイオリン、チェロのための作品からひとつずつを選び、バッハからおよそ200年後、バッハが一族のルーツとするハンガリーで生を受けたコダーイ(1882-1967)、バルトーク(1881-1945)が作りあげた無伴奏の難曲と向き合う。
線と線が織りなす響きが、次から次と新しい調べを生み出す。限りないうたは、聴く者の胸の奥底を照らして、はるかな時間と空間をつなぐ螺旋の中を巡回する。
帰結点が出発点
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「優美で軽やか、明るい響きで演奏会を始めたいと考えました」
神谷が奏でる無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番で演奏会の幕が開く。
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタが第2楽章に長大なフーガを置く4楽章形式で一貫するのに対し、パルティータは番号順に従って楽章数を増やす。フランス趣味を濃くし、多様な様式を自在に統合して、無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全作品が完結する。
前奏曲はパルティータの3番で初めて登場する一方、後に成立したと思われるチェロ組曲はすべて前奏曲で始まる。パルティータの前奏曲は3つのトランペットが加わる祝祭的なカンタータ第29番「神よ、我らなんじに感謝す」のシンフォニア(=序曲)に転用され、ヴィルヘルム・ケンプはピアノ独奏のために編曲した。これは大作「ロ短調ミサ曲」へとつながるバッハの創作上の一大結節点であり、200年を結ぶ演奏会の出発点となっている。
ひとのこえをきく
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バッハが十字架の象徴とした♯記号が4つのパルティータに続くのは、♯が5つ伴う響きを備えたコダーイの無伴奏チェロソナタ。
ジラールは「とても自由なソナタ形式に即興的な会話が飛び交う」とし、バッハの無伴奏とともに「楽器の中に自分の声を見つける」と心を寄せる。コダーイ自身が「何よりも歌わなければならない」「音楽の神髄に最も迫ることができるのは人の声」との意の言葉を残し、ジラールは「合唱作品に魅了され、コダーイに引き寄せられた」と振り返る。
ソナタの冒頭、全編を貫くテーマのように4本の弦を鳴り響かせるが「やわらかさをもった響き」とし、ひとのこえ、自然の響きのようなたたずまいをジラールは求めている。コダーイが記した超絶技巧に対しては「音楽の中に広がる風景や情感を示すためのもの」とし、初録音から十余年を経て「考えるのではなく自然に言い表すことのできる言葉のよう」な近しさを得ている。「コダーイを演奏することですべて自由になってバッハに立ち向かえる」と語り、壮麗さと旋律美が心をとらえるバッハのチェロ組曲第4番を演奏会後半に披露する。
掉尾を飾るのはバルトークの無伴奏ヴァイオリンソナタ。「これまで経験したことのない最高度のテクニックが求められる」と神谷が語る難曲だ。バッハの無伴奏作品のスタイルに寄り添い、稠密な音の構造の中に、最晩年に到達した平明な境地をしたためている。
ひとりヴァイオリンを取るとハンガリー的な色彩感を持つラヴェルの「ツィガーヌ」を奏でる神谷は、バルトークの弦楽四重奏曲第4番、ディベルティメントなどを自身の音楽の原点の一とする。民族の血を色濃く打ち出し、独特無比の響きをもたらすバルトークに畏敬の念を抱きながら「私の心にあるものと直接に響き合う」と共感は深い。





