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高橋多佳子

ミリオン・インタビュー vol.01
ピアニスト 高橋多佳子さん[前編]
Pianist◆Takako Takahashi

新リサイタル・シリーズ
「名曲達の饗宴」に向けて

第1回「Passion & Cool(パッション&クール)」(2014年10月19日、東京・浜離宮朝日ホール)を皮切りに、3年にわたる新しいリサイタル・シリーズ「名曲達の饗宴」に取り組む高橋多佳子さんに、その意図や意気込みなどを伺った。
〈文と写真:横谷貴一〉

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■“ Passion & Cool ”……?

──新しいリサイタル・シリーズについてお話しください。

 これまでの私のリサイタル・シリーズは、「ショパンの旅路」や「ショパン with フレンズ」など、常にショパンが中心でしたが、限りある人生の中でいろいろな作曲家を弾いてみたいという思いが常にありました。特にベートーヴェンのソナタに取り組んでみたいという気持ちが強いのです。勿論32曲すべてが素晴らしいのですが、中期の傑作群が特に好きで、それを弾きたいという気持ちがまずありましたので、中でも有名で弾き応えのある「熱情」「ヴァルトシュタイン」「テンペスト」の3曲をピックアップしたのです。でもこの3曲を1回のリサイタルで弾いてしまうのではなく、3回のシリーズで1曲ずつ弾き、それと何か対極にある作品、比肩し得る素晴らしい作品を弾こうと考えました。宴の世界で名曲達が一緒に響き合う、というような意味でこのシリーズのタイトルに「名曲達の饗宴」と名付けました。

 その第1回は、ベートーヴェンの中でも最高峰と言われる「熱情」にまずチャレンジします。「熱情」は弾くだけでもとても“熱く”なるような作品なので、それに対して涼しくなれるようなクールな作品を選ぼうと考えたときに、やはり大好きな作曲家であるラヴェルの「夜のガスパール」を対比させたら面白いのではないかと思い、この組み合わせにしました。それでタイトルを《Passion & Cool》として、この2曲をメインに据えました。

 2回目は、「ヴァルトシュタイン」ですが、ハ長調で《明るい》、《白い》《神の光》というイメージが私にはありますので、それに対比して《闇》《ダークな悪魔》といったイメージを起こさせる曲、ロ短調という暗い調性のリストのソナタを選びました。

 3回目は「テンペスト」ですが、ニ短調という共通の調性で、悲劇的な雰囲気のある、奥深い世界のラフマニノフの「コレルリの主題による変奏曲」を選んでみました。

 2回目は来年の10月3日、ちょうど私の誕生日に行います。3回目は再来年ですが、まだ日程は決まっていません。

 リサイタルを単独でするよりも、シリーズでする方が私は好きなのです。シリーズにすることによって、お客様が次も聴いてみようと興味を持ってくださったら、同じコンセプトの下で続けるシリーズでの自分の成長なども聴いていただけるのではないかなと思っています。それで今までもシリーズでのリサイタルが多かったのです。

──今までベートーヴェンのソナタに真正面から取り組まれたことは?

 実はあまりないですね。子どもの頃にも学生時代にもベートーヴェンのソナタは結構たくさん弾いていて、ずっと身近にあったものなのに、いざコンサートで弾こうかなと考えたときに、世の中にはたくさん名演がありますし、何となく自分に向いているのかなとか、分厚い音や哲学的な思想といったものが必要なのではないかな、などと思ったらなかなか勇気が出なくて、あまり着手してこなかったのです。重さとか、ドイツ的な感じとかが私の中にあるのかなと思ったら、まだ自信がないなという思いがずっとありました。でもそんなことを言っていたら、弾きたい曲も一生弾けなくなってしまうし、常にチャレンジしていく気持ちを持ち続けたいと思ったので、弾こうと決めました。

 今までもいろいろな曲を理論的に勉強して来ましたが、ベートーヴェンのソナタをアナリーゼすると、あらゆることがもの凄く考えて作られているので、ベートーヴェンのソナタを勉強することで、ショパンやラヴェルなどをもっともっと深く見ていかれるようになるのではないかなと考えています。

髙橋多佳子                                                            (c)Kiichi Yokokya

■シマノフスキはもっと弾かれるべき作曲家

──第1回は他にモーツァルトとシマノフスキを弾かれますね?

 最初のモーツァルトのK.332の12番のソナタは、「熱情」がヘ短調なので、それを聴く前にヘ長調の明るいものを聴いていただいてコンサートの導入にしたいと思って決めました。子どもの頃に弾いて何て素敵なんだろうと思った大好きな曲で、大人になってもう一度弾いてみたいと思いました。

 後半メインのラヴェルを弾くに当たって、同じくらいの世代の作曲家の作品をその前に弾いてみたいと思い、シマノフスキにしました。シマノフスキは、作風が初期、中期、後期で全く別人のように違っているんです。初期の作品はショパンに近いような美しいもので、調性もきちんとしています。1913年にウィーンでストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」の舞台に接して、そこから中期の作風への変換を遂げて行きました。友人に「ストラヴィンスキーは天才だ! 私は彼に魅せられた」という手紙を、この舞台を見た後日送っています。

 そのように、当時活躍していた作曲家たちからの影響が凄く大きいと思います。それでラヴェルの前にシマノフスキの作品を弾こうと思いました。

 今回弾く「マズルカ」Op.50は後期の作品ですが、本当に不思議な世界を醸し出す響きの美しい作品なので、是非多くの方に聴いていただきたいと思っています。

 「ドン・ファンのセレナーデ」は中期の作品で活発ですけれど、その中に哀しみのようなものがちょっとあるような作品です。

 ラヴェルの「夜のガスパール」にも哀しみが満ちています。1曲目の『オンディーヌ』は、人間の男性に恋をしたけれどそれは叶わなくて、雨の雫となって消えてしまう水の精のお話ですし、2曲目の『絞首台』は恐ろしさと哀しみが満ちていると思います。3曲目の『スカルボ』は恐ろし気な小悪魔みたいなものですが、そのスカルボの哀しみみたいなものも表現されている曲だと思いますので、そういう意味で、「ドン・ファンのセレナーデ」とマッチするかなと思いました。

 シマノフスキは随分弾かれるようになって来ましたが、もっともっと弾かれていい作曲家だと思います。初期の頃の作品しかご存知ない方もまだまだ結構いらっしゃいますので、もっと中期以降の作品を聴いていただきたいですね。そうするとシマノフスキ像がまるで違ってくると思います。

──リサイタルがとても楽しみになってきました。

(高橋多佳子さんのその他の活動についてのインタヴュー記事は、後日改めて掲載致します。お楽しみに。)

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